高分子化合物の研究や特性評価には、平均分子量の測定が欠かせません。分子量は高分子の機能や物性に深く関わり、正確な測定が必要です。平均分子量の測定法は「絶対測定法」と「相対測定法」に分けられ、それぞれに有効な分子量範囲が異なります。ここでは、代表的な測定法とその有効範囲を解説します。
測定法まとめ(9種類)
1. 質量分析(Mass Spectrometry, MS)
質量分析は、高分子の末端基から分子量を直接決定する絶対測定法で、主に数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を測定できます。分子量が5×104以下の範囲で高い精度を持ち、試料の屈折率など物理的なパラメー
タは測定に影響しないなど、長所も多い一方、装置のコストが高く、高分子の分子量が高くなると(イオン化しにくくなるため)正確な測定が難しくなるなど、短所もあります。
なお、質量分析に関する豆知識として、島津製作所の普通の会社員だった田中耕一先生が、2002年に「マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型 質量分析法」でノーベル化学賞を受賞されています!
2. 膜浸透圧法
膜浸透圧法も絶対測定法であり、数平均分子量(Mn)を測定します。この方法は溶液の浸透圧を利用して分子量を求める手法で、分子量が104~105の範囲で有効です。しかし、試料の純度が高く、分子量分布が均一である必要があるため、実験の難易度が高いです。
長所は試料の屈折率など物理的なパラメータは測定に影響しないところ、短所は測定分子量の範囲に上限と下限があるところです。
ちなみに、上限の理由は分子量が大きすぎると浸透圧差が小さく精度良く測定できなくなるからで、下限の理由は分子量が小さすぎると半透膜をすり抜けてしまうからです。
3. 蒸気圧浸透圧法
蒸気圧の変化から数平均分子量(Mn)を求める絶対測定法で、104以下の分子量範囲で有効です。蒸気圧浸透圧法は溶液中の蒸気圧を測定するため、小さな分子量の高分子に対して適しており、特にモノマーや低分子量ポリマーの分析に使われます。
4. 末端基定量法
末端基を直接定量することで数平均分子量(Mn)を求める絶対測定法で、分子量が104以下の範囲で有効です。この方法は、末端基が反応しやすく、明確に分かれている場合に限り精度が高い結果が得られます。
5. NMR(核磁気共鳴法)
NMR(核磁気共鳴法)は、分子内の水素や炭素などの原子に基づいて分子量を決定する方法で、絶対測定法に分類されます。分子量が105以下の範囲で数平均分子量(Mn)を測定する際に利用され、構造解析にも有用です。しかし、非常に高分子の解析には適さないことが多く、分子量の増加とともに解析が複雑化します。
6. 光散乱法
光散乱法は、分子による光の散乱パターンを基に分子量を測定する方法で、絶対測定法の一種です。重量平均分子量(Mw)を直接測定でき、103~108の分子量範囲で有効です。高分子溶液の測定に適しており、分子量が高いほど安定した測定が可能です。分子量分布の広い試料にも対応できるメリットがあります。
長所は分子量測定範囲が非常に広く、特に超高分子量領域(Mw≧107)でも測定可能な所、重量平均分子量(Mw) の他に、回転半径(Rg )や第2ビリアル係数(A2)が決定できるところで、短所は試料の溶媒に対する屈折率増分(dn/dc)が、ある程度大きい系でないと、散乱が出ないため測定ができない所と、試料溶液と試料セルの光学精製を十分に行わないと、共存するごみなどの影響で誤った実験結果を得ることがある所です。
7. 沈降平衡法
沈降平衡法は、分子の沈降速度を利用して分子量を測定する絶対測定法で、重量平均分子量(Mw)やZ平均分子量(Mz)の測定が可能です。102~106の範囲で有効で、分子量が大きい高分子にも対応できます。
8. 固有粘度法
固有粘度法は、溶液の粘度を測定し、それに基づいて粘度平均分子量(Mv)の相対測定法です。分子量が102~5×107までの範囲で適用でき、特に高分子材料の測定に使われます。絶対測定ではないため、キャリブレーションが必要ですが、装置が簡便で高分子の実用的な評価に向いています。
なお、キャリブレーションとは、「測定器で標準通りの値を得るために、標準器などを用いてその機器の偏りを計測したり、正しい値になるよう調整したりすること」です
9. SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)
SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)は、分子の大きさに基づいて分子量を推定する相対測定法で、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を測定できます。分子量が102~5×106の範囲で利用でき、キャリブレーションが必要ですが、高分子の分子量分布の測定に適しています。
コメント