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【臨界半径】ガラスの核形成と自由エネルギーについて解説!

ガラスとは、冷却しても結晶化せず、固体でありながら液体のような無秩序な原子配列を保つ物質です。しかし、ガラスの製造過程で結晶が形成されることもあり、これが製造の難しさや性質に大きな影響を与えます。

そのため、ガラスの製造やその性質の理解において、核形成とそれに伴う自由エネルギーの変化は重要な概念です。

今回はそんなガラスの核形成に伴う自由エネルギーの変化について解説していきます!


目次

1. ガラスの核形成とは

ガラスが結晶化する際、最初に原子や分子が集まって小さな結晶の「核」を形成します。これは、液体状態から固体結晶へと変化し始める初期段階です。

ガラスは通常、非常に冷却速度が速いために結晶化が阻害され、アモルファス(非晶質)構造のまま固化します。しかし、一定の条件下でこの核形成が進行すると、ガラスではなく結晶性固体が生じます。


2. 自由エネルギーの変化

自由エネルギーの2つの項

核形成には、系の自由エネルギーG)が関わります。核形成に伴う自由エネルギーの変化は、体積自由エネルギーの変化(ΔGv)界面自由エネルギーの変化(γ)の2つから成り立っています。

  • 体積自由エネルギーの変化(ΔGv:液体が結晶化して固体になると、分子が規則正しい配置に整うため、全体の自由エネルギーが減少します。この体積自由エネルギーの減少は、核形成にとって有利なエネルギーです。温度が低くなるほどΔGvは大きくなり、結晶化しやすくなります。なお、ΔGvは負の値です。
  • 界面自由エネルギーの変化(γ):核の表面には、液体と固体の界面が生じます。この界面はエネルギー的に不安定で、表面張力のような力が働くため、この界面自由エネルギーは核形成を妨げる要因になります。γは正の値を取ります。

これらのエネルギーの変化を合わせた総自由エネルギー変化(ΔG)は以下のように表されます:

\(\Large{
\Delta G = \Delta G_{\text{volume}} + \Delta G_{\text{surface}} = \frac{4}{3}\pi r^3 \Delta Gv + 4\pi r^2 \gamma
}\)

ここで、r は核の半径です。

自由エネルギーをグラフで見てみる

先ほどの\(\Delta G\)をグラフで書くと、以下のようになります。

グラフから分かる通り、半径rが大きくなるにつれて、\(\frac{4}{3}\pi r^3 \Delta Gv \)の項のマイナス分が\(4\pi r^2 \gamma\)の項のプラス分を追い抜いて、ある半径r*を超えると、rが大きくなるほど自由エネルギーが下がり、勝手に結晶ができるようになります。

この時の半径r*を「臨界半径」といいます。

なお、稀に体積自由エネルギーの変化(ΔGv)と界面自由エネルギーの変化(γ)の2つに追加して、「新しい相ができることによって蓄積される歪みの自由エネルギー変化(ΔGs)」を考えることもありますが、今回は考えないことにしています。


3. 臨界半径と核の安定化

核形成が進行するためには、核が一定の大きさ(臨界半径 r* )を超える必要があります。

先ほど説明した通り、臨界半径に達しない小さな核は界面エネルギーの影響で消滅しやすく、安定して成長しません。

臨界半径を超えると、体積自由エネルギーの減少が界面エネルギーの増加を上回り、核が安定して成長する条件が整います。この状態では、核形成が継続して結晶の成長が始まります。

臨界半径( r* )は次のように表されます:

\(\Large{
r^* = \frac{-2\Delta Gv}{\gamma}
}\)

なお、臨界半径の導出方法は以下の通りです。

臨界半径の求め方

核が安定して成長するには、全自由エネルギー変化 ΔG が最小となる条件を求める必要があります。臨界半径 ( r^* ) で自由エネルギーが極大値を取るため、微分を用いてその条件を見つけます。

\(
\frac{d(\Delta G)}{dr} = 0
\)

ΔG の微分

上記の式を r について微分します。
\(
\frac{d(\Delta G)}{dr} = 4 \pi r^2 \Delta Gv + 8 \pi r \gamma
\)

これを 0 に設定して、臨界半径を求めます。
\(
4 \pi r^2 \Delta Gv + 8 \pi r \gamma = 0
\)

両辺を \(4 \pi r\) で割ります。
\(
r \Delta Gv + 2 \gamma = 0
\)

したがって、臨界半径 r* は次のようになります。
\(\large{
r^* = -\frac{2 \gamma}{\Delta Gv}
}\)



4. 温度と核形成の関係

核形成と自由エネルギーの変化には温度も深く関わっています。高温では、体積自由エネルギーの変化(ΔGv)は小さく、界面自由エネルギーの影響が大きくなるため核が形成されにくくなります。一方、温度が低くなるとΔGvが大きくなり、核形成が進みやすくなります。しかし、ガラス製造の際は冷却速度を高めて、核形成が進まないよう制御しています。


まとめ

ガラスの核形成は、体積自由エネルギーと界面自由エネルギーのバランスにより決まる複雑な過程です。適切に冷却することで結晶化を防ぎ、ガラスを非晶質のまま固化させることができます。自由エネルギーの変化を理解することで、ガラスの製造条件や物性をより精密に制御することが可能となります。

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