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【これで完璧!】IUPAC命名法マスターへの道 ~優先順位も徹底解説&練習問題~

目次

1. はじめに:なぜIUPAC命名法が重要なのか?

有機化学を学ぶ上で欠かせないのが、化合物の名前の付け方、IUPAC命名法です。これは「化学の世界共通言語」とも言える国際的なルール。これがなければ、同じ化合物でも呼び方がバラバラになり、化学の世界は混乱してしまいます。

大学での研究や論文発表では、化合物の構造を正確に伝えるためにIUPAC名が必須です。世界中の研究者とスムーズに情報交換し、化学の知識を深めるための基礎となります。

「複雑そう…」と思うかもしれませんが、基本ルールを掴めば大丈夫!

2. IUPAC命名法の基本ステップ

IUPAC命名法には、いくつかの基本的なステップがあります。これらを順に追っていくことで、複雑な化合物でも体系的に命名することができます。

  1. 主鎖(最も長い炭素鎖)を見つける:
    • 不飽和結合(二重結合、三重結合)や主要な官能基を含む最も長い炭素鎖を選びます。
    • 環式化合物の場合は、環が主鎖となるか、側鎖となるかを判断します。
  2. 主鎖に番号を付ける:
    • 主要な官能基の位置番号が最も小さくなるように番号を付けます。
    • 次に不飽和結合、そして置換基の位置番号がなるべく小さくなるようにします。
    • 複数の置換基がある場合、最初の置換基の位置番号が最も小さくなるように、それでも決まらない場合は置換基全体の番号が小さくなるようにします。
  3. 置換基を特定し、命名する:
    • 主鎖に結合している原子団を置換基として特定します(例:アルキル基、ハロゲン基など)。
    • 同じ置換基が複数ある場合は、数を示す接頭語(di-, tri-, tetra- など)を付けます。
  4. アルファベット順に置換基を並べる:
    • 特定した置換基を、その名称のアルファベット順に並べます。
    • 数を示す接頭語(di-, tri-など)や、構造を示す接頭語(sec-, tert-など)はアルファベット順の比較に含めません(例: dimethyl と ethyl なら ethyl が先)。ただし、iso- や cyclo- は含めます。
  5. 接頭語、主鎖名、接尾語を組み合わせて完成:
    • 最終的な化合物名は、一般的に「(置換基の位置番号)-(置換基名)(主鎖のアルカン名)-(官能基の位置番号)-(官能基の接尾語)」の形で構成されます。

これらのステップを意識しながら、具体的な化合物の命名法を見ていきましょう。


3. 基本的な炭化水素の命名法

まずは、有機化合物の骨格となる炭化水素の命名法から学びます。

3.1 アルカン

アルカンは、炭素原子間の結合がすべて単結合である飽和炭化水素です。

直鎖アルカンの命名
メタン (CH4), エタン (C2H6), プロパン (C3H8), ブタン (C4H10), ペンタン (C5H12), ヘキサン (C6H14), ヘプタン (C7H16), オクタン (C8H18), ノナン (C9H20), デカン (C10H22) …

分岐アルカンの命名:

例題を見ながら考えていきます。

例題1

例えば、このような分岐アルカンを考えてみます。これは主鎖が炭素4つのブタンであり、端から2番目にメチル基があるので、この化合物は2-メチルブタンとなります。

答え:2-メチルブタン

練習問題

次の化合物名を答えなさい。(答えは下に)

1.

2.

3.

3.2 アルケンとアルキン

アルケンは炭素-炭素二重結合 (C=C) を、アルキンは炭素-炭素三重結合 (C≡C) を含む不飽和炭化水素です。

  • 二重結合の接尾語: -エン (-ene)
  • 三重結合の接尾語: -イン (-yne)
  • 位置番号は、不飽和結合の位置がなるべく小さくなるように付けます。
  • 幾何異性体 (シス-トランス、E-Z表示法): アルケンの二重結合に関する置換基の配置によって生じる異性体です。

例題2

この化合物は、主鎖が炭素4つのブテンであり、端から2個目の結合(端から2番目の炭素と3番目の炭素の間)が二重結合になっています。また、トランス体なので、trans-2-ブテンが答えです。

答え:trans-2-ブテン

練習問題2

次の化合物名を答えよ。(解答は下に)

1.

2.

3.

4.

3.3 環式炭化水素

炭素原子が環状に結合した炭化水素です。

  • シクロアルカン: シクロ + アルカン名 (例: シクロヘキサン)
  • シクロアルケン: シクロ + アルケン名 (例: シクロヘキセン)
  • 置換基を持つ場合は、置換基の位置番号が小さくなるようにします。複数の置換基がある場合は、アルファベット順で先に来る置換基の位置番号が小さくなるように、または全体の番号が小さくなるようにします。

例題3

まず、主鎖はシクロヘキセンです。そこにメチル基とエチル基が生えています。

メチル(methyl)とエチル)(ethyl)でmとeを比べると、アルファベット順でeの方が先なので、エチル基が1番、メチル基が2番になります。

答え:1-エチル-2-メチルシクロヘキサン

4. 主要な官能基を持つ化合物の命名法

官能基は、化合物の性質を特徴づける特定の原子団です。官能基には優先順位があり、最も優先度の高い官能基が主たる官能基として接尾語になります。

官能基の優先順位(高い順)

優先順位官能基の種類接頭語(置換基として)接尾語(主官能基として)
1カルボン酸-COOHカルボキシ--カルボン酸 / -酸
2スルホン酸-SO3Hスルホ--スルホン酸
3エステル-COORアルコキシカルボニル--カルボン酸アルキル / -酸アルキル
4酸ハロゲン化物-COXハロカルボニル--カルボニルハライド / -酸ハライド
5アミド-CONH2カルバモイル--アミド
6ニトリル-C≡Nシアノ--ニトリル
7アルデヒド-CHOホルミル- / オキソ--アール
8ケトン>C=Oオキソ--オン
9アルコール-OHヒドロキシ--オール
10フェノール類(Ar)-OHヒドロキシ--オール
11チオール-SHメルカプト- / スルファニル--チオール
12アミン-NH2アミノ--アミン
13エーテル-ORアルコキシ-(主に置換基として扱う)
14スルフィド-SRアルキルチオ-(主に置換基として扱う)
アルケン/アルキンC=C / C≡C-エン / -イン
ハロゲン化物-Xハロ-
ニトロ化合物-NO2ニトロ-

(注: これは代表的なものであり、より詳細な優先順位表も存在します)

4.1 アルコール (-OH)

アルコールは、炭化水素の水素原子がヒドロキシ基 (-OH) で置き換えられた化合物です。命名する際には、-OH 基が主官能基か、それとも置換基かによって扱いが変わります。

(A) -OH 基が主官能基の場合: 接尾語 -オール (-ol)

ヒドロキシ基 (-OH) が分子の中で最も優先順位の高い官能基である場合、母体となるアルカンの語尾の -e-オール (-ol) に変えて命名します。

命名の手順:

  1. 主鎖の選択: ヒドロキシ基が結合している炭素原子を含み、かつ最も長い炭素鎖を選びます。
  2. 番号付け: ヒドロキシ基が結合している炭素原子の位置番号が最も小さくなるように、主鎖に番号を付けます。
  3. 命名: (置換基の位置番号)-(置換基名)(主鎖のアルカン名から-eを除いたもの)-(ヒドロキシ基の位置番号)-オール
    • 複数のヒドロキシ基がある場合は、ジオール、トリオールなどとします。
    • 環式アルコールの場合は、ヒドロキシ基が結合している炭素原子を1位とします。

(B) -OH 基が置換基の場合: 接頭語 ヒドロキシ- (hydroxy-)

分子内にカルボン酸、アルデヒド、ケトンなど、アルコールよりも優先順位の高い官能基が存在する場合、ヒドロキシ基 (-OH) は置換基として扱われ、ヒドロキシ- という接頭語でその位置を示します。

例題4

この化合物は、2番目の炭素にヒドロキシ基(-OH基)があります。

答え:2-ブタノール

練習問題4

次の化合物名を答えよ。(解答は下に)

1.

2.

3.

4.2 エーテル (-O-)

  • 一般的に、より小さいアルキル基をアルコキシ基 (RO-) として、大きい方のアルカンを主鎖とします。 (例: メトキシ、エトキシ)
  • 対称エーテルの場合は、ジアルキルエーテルという慣用名もよく使われます。

例題5

答え:メトキシエタン(慣用名: エチルメチルエーテル)

練習問題5

1.

2.

3.

4.3 アルデヒド (-CHO) と ケトン (>C=O)

アルデヒドとケトンは、どちらもカルボニル基 (>C=O) を持つ化合物です。アルデヒドはカルボニル基の炭素に少なくとも1つの水素原子が結合しており (R-CHO)、通常、鎖の末端に位置します。一方、ケトンはカルボニル基の炭素に2つの炭素原子が結合しており (R-CO-R')、鎖の内部に位置します。

(A) アルデヒド (-CHO) の命名

アルデヒド基が主官能基の場合: 接尾語 -アール (-al)

  • 鎖式アルデヒド:
    1. 主鎖の選択: アルデヒド基の炭素原子 (-CHO の C) を含む最も長い炭素鎖を選びます。
    2. 番号付け: アルデヒド基の炭素原子を常に 1位 とします。このため、アルデヒド基の位置を示す番号は通常省略されます(例: 1-プロパナールではなく、プロパナール)。
    3. 命名: 対応するアルカンの語尾の -e-アール (-al) に変えます。
  • 環に直接アルデヒド基が結合している場合: アルデヒド基 (-CHO) が環に直接結合している場合は、環の名称に接尾語 -カルバルデヒド (-carbaldehyde) を付けて命名します。この場合、アルデヒド基の炭素は環の一部とは見なされません。環の炭素の番号付けは、アルデヒド基が結合している位置を1位とします(他に優先すべき置換基がなければ)。

2. アルデヒド基が置換基として扱われる場合: 接頭語 ホルミル- (formyl-)

分子内にカルボン酸など、アルデヒドよりも優先順位の高い官能基が存在する場合、アルデヒド基 (-CHO) は置換基として扱われ、ホルミル- という接頭語でその位置を示します。

(B) ケトン (>C=O) の命名

1. ケトン基が主官能基の場合: 接尾語 -オン (-one)

  1. 主鎖の選択: カルボニル基 (>C=O) を含む最も長い炭素鎖を選びます。
  2. 番号付け: カルボニル基の炭素原子の位置番号が最も小さくなるように、主鎖の炭素に番号を付けます。
  3. 命名: 対応するアルカンの語尾の -e-オン (-one) に変え、その直前にカルボニル基の位置番号を示します。

2. ケトン基が置換基として扱われる場合: 接頭語 オキソ- (oxo-)

分子内にカルボン酸やアルデヒドなど、ケトンよりも優先順位の高い官能基が存在する場合、ケトン性のカルボニル基 (>C=O) は置換基として扱われ、オキソ- という接頭語でその位置を示します。

例題6

答え:プロパナール

例題7

答え:2-ブタノン

練習問題6

1.

2.

3.

4.4 カルボン酸 (-COOH)

  • 接尾語: -酸 (-oic acid) (カルボキシ基の炭素を1位とする)
  • 環に直接カルボキシ基が結合している場合は、-カルボン酸 (-carboxylic acid)

例題8

答え:2-メチルプロパン酸

練習問題7

1.

2.

3.

4.5 エステル (-COOR)

  • 命名法: (アルコール由来のアルキル基名) + (カルボン酸由来の酸名から-ic acid を -ate に変えたもの)
    • 例: 酢酸エチル (ethyl acetate) → IUPAC: エタン酸エチル (ethyl ethanoate)

例題9

答え:エタン酸エチル(酢酸エチル)

練習問題8

1.

2.

3.

4.6 アミン (-NH2, -NHR, -NRR’)

  • 第一級アミン (-NH2): アルカンの語尾の -e を -アミン (-amine) に変える。
  • 第二級、第三級アミン: 最も長いアルキル基を主鎖とし、他のアルキル基は窒素原子上の置換基として N-アルキル- で示す。
  • 置換基として: アミノ- (amino-)

例題10

答え:エタンアミン(エチルアミン)

練習問題9

1.

2.

3.

5. 複数の官能基を持つ化合物の命名法

化合物が複数の異なる官能基を持つ場合、官能基の優先順位に従って主たる官能基を決定します。

  • 最も優先度の高い官能基が接尾語となり、化合物の種類を決定します。
  • 優先度の低い他の官能基は、接頭語として命名されます。
  • 番号付けは、主たる官能基の位置番号が最も小さくなるようにします。

確認のため、再度官能基の優先順位を下に載せておきます。

優先順位官能基の種類接頭語(置換基として)接尾語(主官能基として)
1カルボン酸-COOHカルボキシ--カルボン酸 / -酸
2スルホン酸-SO3Hスルホ--スルホン酸
3エステル-COORアルコキシカルボニル--カルボン酸アルキル / -酸アルキル
4酸ハロゲン化物-COXハロカルボニル--カルボニルハライド / -酸ハライド
5アミド-CONH2カルバモイル--アミド
6ニトリル-C≡Nシアノ--ニトリル
7アルデヒド-CHOホルミル- / オキソ--アール
8ケトン>C=Oオキソ--オン
9アルコール-OHヒドロキシ--オール
10フェノール類(Ar)-OHヒドロキシ--オール
11チオール-SHメルカプト- / スルファニル--チオール
12アミン-NH2アミノ--アミン
13エーテル-ORアルコキシ-(主に置換基として扱う)
14スルフィド-SRアルキルチオ-(主に置換基として扱う)
アルケン/アルキンC=C / C≡C-エン / -イン
ハロゲン化物-Xハロ-
ニトロ化合物-NO2ニトロ-

例題11

この問題は難しいので、解説も参考にしながら考えてみて下さい。

官能基の特定:

  • カルボキシ基 (-COOH)
  • ヒドロキシ基 (-OH)
  • 二重結合 (C=C)

主官能基の決定: 優先順位は カルボン酸 > アルコール > アルケン です。よって、主官能基はカルボキシ基

主鎖の決定: カルボキシ基を含み、二重結合も含む最も長い炭素鎖は炭素数5です。

番号付け: カルボキシ基の炭素を1位とします。 CH₂(5)=CH(4)-CH(3)(OH)-CH₂(2)-COOH(1)

接頭語の命名と整列:

  • 3位にヒドロキシ基: 3-ヒドロキシ
  • 4位に二重結合: これは主鎖名に組み込まれます。

化合物名の完成: 主鎖は炭素数5で4位に二重結合があるので「ペント-4-エン酸 (pent-4-enoic acid)」。 これに接頭語を付けて、3-ヒドロキシペント-4-エン酸 (3-hydroxypent-4-enoic acid) となります。

練習問題10

以下の化合物名を答えよ。(解答は下にあります)

1.

2.

3.

4.

6. 芳香族化合物の命名法(基礎)

芳香族化合物は、ベンゼン環を基本骨格とする化合物群です。

  • ベンゼン誘導体:
    • 一置換ベンゼン: 置換基名 + ベンゼン (例: ニトロベンゼン, クロロベンゼン)
    • トルエン (メチルベンゼン), フェノール (ヒドロキシベンゼン), アニリン (アミノベンゼン), 安息香酸 (ベンゼンカルボン酸) などの慣用名がIUPACでも認められているものがあります。これらを母体として命名することも多いです。
  • 二置換ベンゼン: 置換基の位置関係を オルト (o-, 1,2位), メタ (m-, 1,3位), パラ (p-, 1,4位) で示すことができます。または番号で示します。

例題12

答え:1,2-ジメチルベンゼン または o-キシレン

例題13

答え:1,4-ジメチルベンゼン または p-キシレン

練習問題11

1.

2.

3.

7.解答と解説

練習問題1(アルカン)

  1. 2,3-ジメチルペンタン
  2. 2,2-ジメチルペンタン
  3. 3-エチルヘキサン

練習問題2(アルケンとアルキン)

  1. 4-メチルペント-1-エン
  2. 4-メチルペント-2-イン
  3. cis-3-ヘキセン または (Z)-3-ヘキセン
  4. 2-エチルペント-1-エン

練習問題3(環式炭化水素)

  1. 1-エチル-3-メチルシクロヘキサン
  2. 3-プロピルシクロペント-1-エン (または 3-プロピルシクロペンテン)
  3. 1,1-ジメチルシクロブタン

練習問題4(アルコール)

  1. 2-メチルブタン-2-オール
  2. 3-メチルシクロヘキサノール
  3. プロプ-2-エン-1-オール (慣用名: アリルアルコール)

練習問題5(エーテル)

  1. 1-エトキシプロパン
  2. メトキシシクロヘキサン
  3. 2-イソプロポキシプロパン (慣用名: ジイソプロピルエーテル)

練習問題6(アルデヒドとケトン)

  1. 3-メチルブタナール
  2. ヘキサン-3-オン
  3. シクロヘキサノン

練習問題7(カルボン酸)

  1. 2-ブロモブタン酸
  2. シクロペンタンカルボン酸
  3. ブタン二酸 (慣用名: コハク酸)

練習問題8(エステル)

  1. プロパン酸エチル
  2. 安息香酸メチル
  3. メタ酸イソプロピル (または ギ酸イソプロピル)

練習問題9(アミン)

  1. プロパン-2-アミン (慣用名: イソプロピルアミン)
  2. N,N-ジメチルプロパン-1-アミン (問題文の構造を (CH3)2N-CH2CH2CH3 と解釈した場合)
  3. シクロヘキシルアミン (または シクロヘキサンアミン)

練習問題10(複数の官能基)

  1. 3-ヒドロキシプロパナール
  2. 2-アミノ-4-クロロシクロヘキサノン
  3. 3-オキソブタン酸(アセト酢酸)
  4. 3-アミノ-2-ヒドロキシプロパナール

練習問題11(芳香族化合物)

  1. ニトロベンゼン
  2. 4-クロロアニリン (または p-クロロアニリン)
  3. 3-メチル安息香酸 (または m-メチル安息香酸)

9. おわりに

IUPAC命名法は、一見複雑に見えますが、基本ルールと優先順位を理解し、繰り返し練習することで必ず習得できます。この記事が、皆さんの学習の一助となれば幸いです。

もし誤りを見つけたり、分からないところがあった場合は気軽にコメントしてもらえると嬉しいです!コメントは全部読んでます!

命名法は有機化学の基礎であり、より深い理解への第一歩です。ここで学んだことを土台にして、さらに複雑な化合物や、立体化学を含む命名法などにも挑戦してみてください!

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