高分子化学を学ぶ上で、多くの学生が混同しがちな「付加重合」と「重付加」。どちらも名前に「付加」と入っており、小さな分子(モノマー)から大きな分子(ポリマー)が作られる点は共通しています。しかし、その反応プロセス(反応機構)には根本的な違いがあります。
この違いを理解することは、高分子の合成法や物性を理解する上で極めて重要です。この記事では、2つの重合反応の本質的な違いを、反応機構や分子量の観点から徹底解説します。
付加重合 (Addition Polymerization) | 連鎖成長のダイナミズム
付加重合とは、主に炭素-炭素二重結合(C=C)のような不飽和結合を持つモノマーが、活性種を起点として連鎖的に反応し、一気に高分子を生成する反応です。
反応機構:連鎖成長 (Chain-growth)
付加重合の最大の特徴は、連鎖成長 (Chain-growth) メカニズムで進行する点にあります。この反応は、以下の3つの素反応から構成されます。
- 開始 (Initiation): 開始剤が分解するなどして活性種(ラジカル、カチオン、アニオン)が生成し、これが最初のモノマーの二重結合を攻撃して活性な末端を作ります。
- 成長 (Propagation): 活性末端が、ドミノ倒しのように次々と別のモノマーの二重結合を開裂させながら結合し、ポリマー鎖が急速に伸長します。
- 停止 (Termination): 活性末端同士の再結合や不均化などにより、活性が失われ、鎖の成長が停止します。
このメカニズムのため、反応系内には高分子量のポリマーと未反応のモノマーが主に存在し、反応途中の中間的な大きさの分子(オリゴマー)の濃度はごく僅かです。反応開始後、比較的短時間で高分子量体が生成されます。
代表例
- ポリエチレン (PE): エチレン (CH2=CH2) から合成される最も代表的なプラスチック。
- ポリ塩化ビニル (PVC): 塩化ビニル (CH2=CHCl) から合成。
- ポリスチレン (PS): スチレン (CH2=CH(C6H5)) から合成。
重付加 (Polyaddition) | 段階成長の緻密さ
重付加とは、互いに反応しうる官能基を2つ以上持つモノマーが、逐次的な付加反応を繰り返すことで高分子を生成する反応です。
反応機構:段階成長 (Step-growth)
重付加は、段階成長 (Step-growth) メカニズムで進行します。これは、系内に存在するどの分子同士でも反応しうることを意味します。
- まず、モノマー同士が反応して二量体(ダイマー)を生成します。
- 次に、その二量体が別のモノマーや二量体と反応して三量体や四量体になります。
- このプロセスが繰り返され、まるでブロックを一つひとつ組み立てるように、反応の進行とともに段階的に分子量が大きくなっていきます。
このため、反応初期はモノマーや低分子量のオリゴマーが主成分であり、高分子量体が得られるのは反応がかなり進行してから(高い反応率に達してから)になります。分子量分布は、一般的に付加重合よりも広くなる傾向があります。

代表例
- ポリウレタン (PU): ジイソシアネートとポリオール(ジオール)の重付加で生成。ウレタン結合 (−NHCOO−) を持ち、断熱材や塗料、伸縮繊維などに使われます。OCN−R1−NCO+HO−R2−OH→−[O−R2−O−CO−NH−R1−NH−CO]n−
- エポキシ樹脂: エポキシ化合物とアミンなどの硬化剤との反応で三次元網目構造を形成。強力な接着剤やコーティング剤として知られます。
一目でわかる!付加重合 vs 重付加
項目 | 付加重合 (Addition Polymerization) | 重付加 (Polyaddition) |
反応機構 | 連鎖成長 (Chain-growth) | 段階成長 (Step-growth) |
成長プロセス | 活性末端にモノマーが次々付加 | どの分子同士でも反応し、段階的に成長 |
モノマー | C=C二重結合を持つ分子 | 複数の官能基を持つ2種類以上の分子 |
活性種 | 開始剤によるラジカル、イオンが必要 | 不要(官能基間で直接反応) |
分子量の変化 | 反応初期から高分子量体が生成 | 反応の進行に伴い、徐々に増大 |
反応系の中身 | 高分子と未反応モノマーが共存 | 様々な大きさの分子が混在 |
副生成物 | なし | なし |
代表例 | ポリエチレン、ポリプロピレン | ポリウレタン、エポキシ樹脂 |
まとめ
付加重合と重付加は、どちらもモノマーが付加してポリマーを形成し、脱離する小分子(副生成物)がないという点では共通しています。しかし、その心臓部である反応機構が「連鎖的」か「段階的」かという点で全く異なります。
このメカニズムの違いが、生成するポリマーの分子量や分子量分布、ひいては材料としての物性に直結します。高分子化学を深く理解するため、この本質的な違いをしっかりと押さえておきましょう。
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