放物線則とは、拡散に支配される成長プロセスにおいて、時間に対して成長厚さが放物線的(\(x∝tx \propto \sqrt{t}\))に増加することを示す経験則のことです。特に、高温酸化や固体中の拡散反応においてよく観察されます。
目次
1. 放物線則の基本式
放物線則は、一般に次の形で表されます。
\(\Large{x^2 = k t}\)
ここで、
- x :酸化膜の厚さや拡散層の厚さ(時間 t に依存して成長する)
- t :時間
- k :放物線速度定数(材料や環境条件によって決まる)
この関係式から、時間が長くなるにつれて成長速度が次第に遅くなる(時間の平方根に比例する)ことが分かります。
なお、教科書によっては\(\large{x^2 = 2kt}\)と書かれることもありますが、kは定数なので、実質同じ式です。その場合はk’=2kみたいに考えてください。
2. 放物線則の導出(酸化の例)
放物線則は、拡散律速のときのみ成立します。(←ここ重要です)
例えば、金属の酸化膜成長を考えた場合、次のような流れで説明できます。
STEP
酸素イオン(または金属イオン)が酸化膜を通って拡散し、酸化反応が起きる
STEP
拡散によって酸素供給が制限されるため、酸化膜の成長速度は「拡散律速」となる
STEP
拡散の流れはFickの第一法則に従う\(J = -D \frac{dc}{dx}\) (D は拡散係数、c は酸素濃度、x は膜厚)
STEP
酸化膜の厚さが成長する速度 dx/dt は拡散の流れに比例する
\(\frac{dx}{dt} \propto \frac{1}{x}\)
\(\frac{dx}{dt} \propto \frac{1}{x}\)
STEP
両辺を積分すると、\(x^2 \propto t \)となり、 これが放物線則となる。
3. 放物線則が適用される現象
放物線則は、以下のような場面で観測されます。
- 金属の高温酸化
- 例:鉄(Fe)の酸化による酸化鉄(FeO)層の成長
- 高温で金属が酸化すると、酸化膜内を金属イオンや酸素イオンが拡散して成長するため、時間の平方根に比例して膜が厚くなる。
- 半導体の熱酸化
- 例:シリコン(Si)の酸化による二酸化シリコン(SiO₂)膜の成長
- Si ウェハーを酸素雰囲気中で加熱すると、拡散律速のため放物線則に従う。
- 拡散律速の固相反応
- 例:金属間化合物の成長(Fe-Al系、Ni-Al系など)
- ある金属と別の金属が接触していると、拡散によって新しい相が成長し、時間の平方根に比例する。
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