「ポリスチレンの分子量は?」と聞かれたら皆さんは何と答えるでしょうか?
「時と場合による」が答えですよね。
それもそのはずで、高分子は分子量が決まっておらず、集団のなかの一つ一つの高分子が違う分子量を持つことが特徴です。そのため、分子量を扱うときは、平均分子量を扱います。
この平均分子量には、基本的には2つの平均値が用いられます。それが、「数平均分子量」と「重量平均分子量」です。
1. なぜ「平均分子量」を考える必要があるのか?
高分子は、モノマーが重合して長い鎖状になったものです。しかし、重合の過程で、鎖の長さは完全に均一にはなりません。短い鎖もあれば、非常に長い鎖もできます。この「分子の長さのバラつき」のことを「分子量分布」と呼びます。
分子量分布のイメージ
(いったんMnとかは無視してください)

この分布があるため、高分子の性質(強度、粘度、加工性など)は、単一の分子量では語れません。そこで、この分布を代表する値として、数平均分子量と重量平均分子量が用いられるのです。
2. 数平均分子量 ($M_n$):分子の「数」に着目
数平均分子量 ($M_n$) は、その名の通り、「高分子の数を基準にした平均分子量」です。
数平均分子量は比較的理解しやすく、計算も簡単です!
考え方
想像してみてください。あなたが持っている10本の高分子鎖のうち、
- 分子量1000の鎖が8本
- 分子量5000の鎖が2本
あったとします。このとき、数平均分子量は次のように計算します。
$$M_n = \frac{\sum (N_i \cdot M_i)}{\sum N_i}$$
- $N_i$: 分子量 $M_i$ の高分子鎖の数
計算例
上記の例で計算してみましょう。
$$M_n = \frac{(8 \times 1000) + (2 \times 5000)}{8 + 2} = \frac{8000 + 10000}{10} = \frac{18000}{10} = 1800$$
数平均分子量は1800となります。
特徴と測定方法
- 特徴: 分子量の小さい(短い)鎖の影響を強く受けます。分子数の多い方に平均値が引っ張られます。
- 測定方法: 浸透圧法、末端基定量法などで測定されます。
3. 重量平均分子量 ($M_w$):分子の「重さ(質量)」に着目
重量平均分子量 ($M_w$) は、「高分子の重さ(質量)を基準にした平均分子量」です。
こっちの重量平均は普段使わない考え方なので、最初は少し難しく感じると思います。
考え方
同じ例で考えてみましょう。
- 分子量1000の鎖が8本(全体の質量:$8 \times 1000 = 8000$)
- 分子量5000の鎖が2本(全体の質量:$2 \times 5000 = 10000$)
重量平均分子量は次のように計算します。
$$M_w = \frac{\sum (N_i \cdot M_i^2)}{\sum (N_i \cdot M_i)}$$
- $N_i \cdot M_i$: 分子量 $M_i$ の高分子鎖の質量
計算例
上記の例で計算してみましょう。
$$M_w = \frac{(8 \times 1000^2) + (2 \times 5000^2)}{(8 \times 1000) + (2 \times 5000)} = \frac{(8 \times 1000000) + (2 \times 25000000)}{8000 + 10000}$$
$$M_w = \frac{8000000 + 50000000}{18000} = \frac{58000000}{18000} \approx 3222$$
重量平均分子量は約3222となります。
特徴と測定方法
- 特徴: 分子量の大きい(長い)鎖の影響を強く受けます。質量の大きい方に平均値が引っ張られます。
- 測定方法: 光散乱法、超遠心沈降法などで測定されます。
4. 数平均分子量と重量平均分子量の違いをまとめると
先ほどの例の計算結果をもう一度見てみましょう。
- 数平均分子量 ($M_n$) = 1800
- 重量平均分子量 ($M_w$) = 3222
同じ高分子の集合なのに、平均値が大きく異なることがわかりますね。
どちらの平均値が高い?
一般的に、分子量分布がある高分子では、常に$M_w \ge M_n$ となります。←これは非常に大事です!
完全に単分散(すべての分子鎖が同じ分子量)の場合のみ、$M_w = M_n$ となります。

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