錯体の命名法
錯体の命名法にはいくつかのルールがあり、それらを理解することで「名前⇆化学式」の変換が行えるようになります。
この記事はそれらルールを一つづつ解説した後、練習問題で確認できるような構成にしてます。
それではどうぞ!!
1. 配位子の名称
まず、錯体に名前を付けられるようになるには、配位子の名前を覚えていなければいけません。
ここでは代表的な配位子の名称(日本語と英語)をまとめておきます。
「アクア」とか「アンミン」とかは高校化学でも出てくるので、少し親近感がありますね。
化学式 | 名称 | 配位原子 | ドナー数 |
---|---|---|---|
H2O | アクア | O | 1 |
NH3 | アンミン | N | 1 |
F– | フルオリド | F | 1 |
H– | ヒドリド | H | 1 |
NH2CH2CH2NH2 (略号)en | 1,2-ジアミノエタン | N | 2 |
(略号)bpy | 2,2’-ビピリジン | N | 2 |
(略号)edta4- | エチレンジアミンテトラアセタト | N, O | 2(N), 4(O) |
2. 配位子の命名についてのルール
ルールその1:陰イオン性配位子は-oで終わる。
これだけでは少し分かりにくいですね。
例として、「-ide, -ite, -ate」で終わるイオンは,「-ido, -ito, -ato」 になります。
例えば、
H−:ヒドリド(hydrido )
NO3−: ニトラト(nitrato)
のようになります。
ルールその2:中性の配位子の名称は,通常は元のまま変更しない.
例) H2O: アクア(aqua), NH3: アンミン(ammine),CO:カルボニル(carbonyl)
3. 配位子の順番
配位子の名称は中心金属の名称の前に、アルファベット順に並べます。
その際、接頭辞は無視します。
結合原子のアルファベット順ではないことに注意!
また、イオン性化合物は,英語ではカチオンが先です。
例 \(\large{\ce{[CoCl(NH3)5]SO4}}\)の名称は
日本名 ペンタアンミンクロロコバルト(III)硫酸塩
英語名 penta ammine chlorido cobalt(III) sulfate (←見やすいように区切ってます)
です。
4. 錯体がアニオンの時はー酸(ーate)をつける
例 \(\large{\ce{K2[PtCl4]}}\)
日本語 テトラクロリド白金(II)酸カリウム
英語 potassium tetrachloridoplatinate(II)
以下はラテン語由来の名称になるので注意です。
金属元素 | 英語名 | 錯体がアニオンのとき(英) | 錯体がアニオンのとき(日) |
---|---|---|---|
Fe | Iron | Fettate | 銅酸イオン |
Cu | Copper | Cuprate | 銅酸イオン |
Ag | Silver | Argentate | 銀酸イオン |
Au | Gold | Aurate | 金酸イオン |
Sn | Tin | Stagnate | スズ酸イオン |
Pb | Lead | Plumbate | 鉛酸イオン |
5. 配位子の数は接頭辞で表す
例えば、配位子NH3が4つ付いている[Cu(NH3)4]2+をテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンと呼ぶように、配位子の数は接頭辞で表します。
ここまでは高校でも習うことなのですが、問題はこの後です。
配位子名に接頭辞が含まれている場合は、bis, tris等の代わりの接頭辞を用います!
これが重要。
例えば、「 [Co(en)3]2+ 」は、「en」、つまり「1,2-ジアミノエタン」が配位子であるため、
この錯体は、トリス(1,2-ジアミノエタン)コバルト(Ⅱ) ( tris(1,2-diaminoethane)cobalt(II) )となります。
接頭辞の名称は以下の表参照。
1 | モノ | mono |
2 | ジ(ビス) | di (bis) |
3 | トリ(トリス) | tri (tris) |
4 | テトラ(テトラキス) | tetra (tetrakis) |
5 | ペンタ(ペンタキス) | penta (pentakis) |
6 | ヘキサ(ヘキサキス) | hexa (hexakis) |
7 | ヘプタ(ヘプタキス) | hepta (heptakis) |
8 | オクタ(オクタキス) | octa (octakis) |
9 | ノナ(ノナキス) | nona (nonakis) |
10 | デカ(デカキス) | deca (decakis) |
11 | ウンデカ | undeca |
12 | ドデカ | dodeca |
6. ある配位子がn個の金属を架橋配位する場合は, 配位子名の前にμn- を付与する
例えば、\(\ce{[(H3N)5CoOCo(NH3)5]4+}\)を例に挙げると
μ-オキシド-ビス[ペンタアンミンコバルト(III)]
となります。
(これを使う機会は少ないかもしれません)
練習問題
問題
以下の錯体について、IUPACの指針に従い命名せよ。
(a) \(\ce{[Cu(OH2)4](NO3)2}\)
(b) \(\ce{Na2[RuCl4]}\)
(c) \(\ce{[Fe(en)2(ox)]Cl}\)
答え
(a) テトラアクア銅(Ⅱ)硝酸塩
(b) テトラクロリドテニウム(Ⅱ)酸ナトリウム
(c) ビス(1, 2- ジアミノエタン)オキサラト鉄(Ⅲ)塩化物
参考
英語の命名は以下の通り。
(a) Tetraaquacopper(Ⅱ)nitrate
(b) Sodium tetrachloridoruthenate(Ⅱ)
(c) Bis(1, 2-diaminoethane)oxalatoiron(Ⅱ)chloride
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