化学で平衡の濃度計算は、高校の教科書レベルでは平衡の濃度計算=「濃度平衡定数に値を代入するだけ」
といった簡単な計算で問題を解くことが出来ました。
しかし、高校の発展レベルや大学レベルでは電荷均衡と物質収支を使った考え方がベースになっていきます。
この記事ではそれらを習いたての方に向けて、電荷均衡や物質収支の考え方を説明したうえで、
計算方法を分かりやすく解説していきます!!
計算のステップ
平衡の濃度計算は以下のステップを踏んで進めていきます。
全部で6ステップですね。少し難しそうな感じがしますが、慣れればどうってことありません。体感的には物理で円運動の周期を求めるくらいの難易度です。
手順をざっと見たので、次はステップごとの具体的な操作を、例題を解きながら解説します!
例題を使ってステップの手順を解説
0.0100 mol NH3 を含む水溶液1.000 L中の各化学種の濃度([NH3], [NH4+], [H+], [OH–] )を求めよ。
ただし、\(K_b = 1.76 \times 10^{-5}, K_w = 1.00 \times 10^{-14}\) とする。
ステップ1:適切な反応式を書く
いきなりですが、初心者にとって最初の難関です…
やることとしては溶液の中の平衡反応をただ書きだすだけなのですが、意外と書き漏らしが出てくるんですよね。でも、単純な系を扱う問題の時は超簡単です。今回は単純な系を選んでいるので簡単です。
\(\ce{NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-} , K_b = 1.76 \times 10^{-5} \)
\(\ce{H2O <=> H+ + OH-}, K_w = 1.00 \times 10^{-14}\)
これだけです。
ステップ2:電荷均衡の式を記す
まず、電荷均衡の意味ですが、これは「溶液って必ず電荷がプラマイゼロになるよね」ってことです。
溶液の中には陽イオンや陰イオンがうようよいますが、溶液の全電荷は0になりますよね。
式で表すと、 (正電荷の合計)ー(負電荷の合計)= 0
すなわち、 (正電荷の合計)=(負電荷の合計)
今回だと、
\(\ce{[NH4+] + [H+] = [OH^-]}\)
です。
ステップ3:物質収支の式を記す
物質収支の考え方も単純で、「物質は勝手に増えたり減ったりしないよね」って考えから来てます。
式にすると以下のようになります。
(溶液に溶かした物質Aの量)=(電離してない物質Aの量)+(電離した物質Aの量)
当たり前じゃんって思ってくれればOKです。
今回はそれを酢酸に当てはめて、
\(\ce{[NH3] + [NH4+]} = 0.01\)
0.01は、問題文の「0.0100 mol NH3 を含む水溶液1.000 L」からきてます。
ステップ4:平衡定数の式を記す
これはステップ1の式を平衡定数の式にするだけです。
今回は、Kb, Kwとの関係を式にして、
\(K_b = \ce{\frac{[NH_4+][OH-]}{[NH3]}} = 1.76 \times 10^{-5}\)
\(K_w = \ce{[H^+][OH^-]} = 1.00 \times 10^{-14}\)
の2つが書ければOKです。
ステップ5:式と未知数を数え,未知数を解けるか確認する
正直、このステップは問題を解くうえでは飛ばしてOKです。
このステップはそもそも方程式が解けるかを確かめるものなので、試験の問題など、絶対に解が出ることが分かっているときはいりません。
方程式の数より未知数の数が多いと解が求まらないという数学の定理があるのですが、
「(方程式の数)≧(未知数の数)」であることを確認して、解が求まることを確認するのがこのステップです。
今回は、(方程式の数)=4, (未知数の数)=4なので無事解が求まります。
ステップ6:全ての未知数について方程式を解く
これが最後のステップにして最大の難関です。
難しいところは、しばしば自分で近似をしなければいけないところです。
近似のパターンはいつも同じなので慣れれば簡単なのですが、慣れるまでが難しい。ちなみにそれゆえ、京都大学の入試には毎年のようにこの手の問題が登場してます。
分かりやすくするために、計算の過程を、近似する前までと近似とそれ以降とで区切って説明していきたいと思います。
ステップ6前半 ~近似する前まで~
これは簡単です。単に連立方程式を解くだけ。
ただ、一つコツがあります。
それは、酸塩基の問題では各化学種の濃度を[H+]で表すようにする
ということです。このルールだけ守れば余裕。
例えば今回なら、
\(\ce{[NH4+] + [H+] = [OH^-]}\)
\(\ce{[NH3] + [NH4+]} = 0.01 = F\)
\(K_b = \ce{\frac{[NH4+][OH^-]}{[NH3]}} = 1.76 \times 10^{-5}\)
\(K_w = \ce{[H+][OH^-]} = 1.00 \times 10^{-14}\)
となります。ただし書く手間を省くため、0.01をFと置いてます。
これらの式から、
\([OH^-] = \frac{[H^+]}{K_w}\)
\([NH4^+] = [OH^-] – [H^+] = \frac{[H^+]}{K_w} – [H^+]\)
\([NH3] = F – [NH4^+] = F – \frac{[H^+]}{K_w} – [H^+]\)
と[H+]を使って表せます。
これを\(K_b = \frac{[NH_4^+][OH^-]}{[NH_3]}\)に代入して、
\(\Large{K_b = \frac{[NH_4^+][OH^-]}{[NH_3]} = \frac{(\frac{K_w}{[H^+]} – [H^+])(\frac{K_w}{[H^+]})}{F – (\frac{K_w}{[H^+]} – [H^+])}}\)
なかなかいかつい式ですが、これでちゃんと合ってます。ただこれを筆算で解くのは至難の業ですよね。
なので近似が必要になってきます。
ステップ6後半 ~近似以降~
今回の最難関ポイントです。
前提となる近似の考え方ですが、例として、
「103 + 5 = 1000 + 5 =1005 ≒ 1000」としてよくない?って考えが元になります。
10-2 – 10-5 ≒ 10-2とか。
大事なのは、足し算と引き算でしか近似は使えないってことです。
例えば、103 × 5 = 5000 なのに、103 × 5 ≒ 103 = 1000 ってしたら結果が全然変わってしまいますよね。
なので掛け算と割り算では使えません。
今回ですが、
\(\Large{K_b = \ce{\frac{(\frac{K_w}{[H+]} – [H+])(\frac{K_w}{[H+]})}{F – (\frac{K_w}{[H+]} – [H+])}}}\)
の式で足し算や引き算が使われている箇所に注目したり、系の状況について考察したりして、
\([OH^-] ≫ [H^+] ⇨ \frac{K_w}{H^+} ≫ [H^+]\) であることに気付かなくてはいけません。
近似のコツですが、今回のような酸塩基が絡む問題では、溶液が酸性または塩基性に傾くため、[H+] ≫ [OH–] または、[H+] ≪ [OH–] となることが多いです。なのでまずそれらが使えないか試してみましょう。
今回はそれが無事使えたので、近似して、
\(\large{\ce{\frac{K_w}{H+} – [H+] \approx \frac{K_w}{H+}}}\)と近似できます。
よって、
\(\Large{ K_b = \ce{\frac{(\frac{K_w}{[H+]} – [H+])(\frac{K_w}{[H+]})}{F – (\frac{K_w}{[H+]} – [H+])}} = \frac{(\frac{K_w}{\ce{[H+]}}) (\frac{K_w}{\ce{[H+]}})}{ F – (\frac{K_w}{\ce{[H+]}})}}\)
となり、
\([OH^-]^2 = K_b[OH^-] – K_bF\)を解いて、
\([OH^-] = \frac{-K_b + \sqrt{K_b^2 + 4K_bF}}{2} = 4.10_8 \times 10^{-4} = 4.11 \times 10^{-4}[mol/L]\)
\([H^+] = \frac{K_w}{[OH^-]} = 2.43_4 \times 10^{-9} = 2.43 \times 10{-9} [mol/L]\)
\([NH_4^+] \approx [OH^-] = 4.11 \times 10^{-4} [mol/L]\)
\([NH_3] \approx F – [NH4^+] = 9.58_9 /times 10^(-3) = 9.59 \times 10^{-3} [mol/L]\)
これで終了です。本当にお疲れさまでした!!
いちいち区切らずに問題を解くと
最後に、ステップに区切らずに問題を解くとどうなるかも載せておきます。
たぶんこっちの方が流れをつかむのには向いてると思います。
問題(再掲)
0.0100 mol NH3 を含む水溶液1.000 L中の各化学種の濃度([NH3], [NH4+], [H+], [OH–] )を求めよ。
ただし、\(K_b = 1.76 \times 10^-5, K_w = 1.00 \times 10^-14\) とする。
ついでに一回自分でも解いてくれると嬉しいです!
解答
まず、化学反応式は、
\(\ce{NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-} , K_b = 1.76 \times 10^{-5} \)
\(\ce{H2O <=> H+ + OH-}, K_w = 1.00 \times 10^{-14}\)
である。
次に電荷均衡と物質収支の式は、
\([NH4+] + [H^+] = [OH^-]\) ・・・①
\(\ce{[NH3] + [NH4+]} = 0.01\) ・・・②
平衡定数の式は、
\(K_b = \frac{[NH_4+][OH^-]}{[NH3]}= 1.76 \times 10^{-5}\) ・・・③
\(K_w = [H^+][OH^-] = 1.00 \times 10^{-14}\) ・・・④
①, ②, ④より、
\([OH^-] = \frac{K_w}{[H^+]}\)
\([NH_4^+] = [OH^-] – [H^+] = \frac{K_w}{[H^+]} – [H^+]\)
\([NH_3] = F – [NH4^+] = F – (\frac{K_w}{[H^+]} – [H^+])\)
と[H+]を使って表せる。
これらを③に代入して、
\(\Large{K_b = \frac{[NH_4^+][OH^-]}{[NH_3]} = \frac{(\frac{K_w}{[H^+]} – [H^+])(\frac{K_w}{[H^+]})}{F – (\frac{K_w}{[H^+]} – [H^+])}}\)
今回は塩基であるNH3を水に溶かすので、溶液中では[OH–] ≫[H+]
\(\large{\ce{\frac{K_w}{H+} – [H+] \approx \frac{K_w}{H+}}}\)と近似できます。
よって、
\(\Large{ K_b = \ce{\frac{(\frac{K_w}{[H+]} – [H+])(\frac{K_w}{[H+]})}{F – (\frac{K_w}{[H+]} – [H+])}} = \frac{(\frac{K_w}{\ce{[H+]}}) (\frac{K_w}{\ce{[H+]}})}{ F – (\frac{K_w}{\ce{[H+]}})}}\)
となり、
\([OH^-]^2 = K_b[OH^-] – K_bF\)を解いて、
\([OH^-] = \frac{-K_b + \sqrt{K_b^2 + 4K_bF}}{2} = 4.10_8 \times 10^{-4} = 4.11 \times 10^{-4}[mol/L]\)
\([H^+] = \frac{K_w}{[OH^-]} = 2.43_4 \times 10^{-9} = 2.43 \times 10{-9} [mol/L]\)
\([NH_4^+] \approx [OH^-] = 4.11 \times 10^{-4} [mol/L]\)
\([NH_3] \approx F – [NH4^+] = 9.58_9 /times 10^(-3) = 9.59 \times 10^{-3} [mol/L]\)
(解答終わり)
さいごに
ぶっちゃけ今回の内容は慣れです。
今は難しく感じるかもしれませんが、慣れれば意外と解けるようになっていきます。
ぜひ練習問題をこなしてすらすら解けるようになってください!!応援してます!
コメント
コメント一覧 (6件)
分かりやすかったです!
区切らずに問題を解くところに
[H+] ≫[OH–]
このようにかいてあったのですが
逆ではないでしょうか
コメントありがとうございます!わかりやすいって言ってもらえてすごく嬉しいです!!
確認したところ、宮原さんのおっしゃる通り不等号の向きが逆になっていたので修正してあります。申し訳ありません…
もし、また気づいた点がありましたらコメントで教えてくださると嬉しいです!!
ありがとうございます。理解が深まりました。
ですが、1点誤りかと思われる箇所がありました。
区切らずに問題を書くという部分の「①、②、④より、」以下3行の部分です。
水のイオン積と水素イオン濃度の分母と分子が逆ではないでしょうか。
コメントありがとうございます!
ご指摘の通り、水のイオン積と水素イオン濃度の分母と分子が逆になっていました…
間違いを見つけて下さってありがとうございます!
再び失礼します。
先程の部分でもう一点。
[NH₃]=F-[NH₄⁺]=F-(Kw/[H⁺]-[H⁺])の括弧が抜けていませんか?
2つも間違いを見つけて下さってありがとうございます…!
どちらも修正しておきました!
間違い多すぎですね…すみません…