今回は赤外分光法とラマン分光法についての話です。
基礎のところを重点的に扱っています。
指標表との対応関係についてはこちら。
大学では分子の対称性とか、群論とかと一緒に習う気がします。
赤外分光法とラマン分光法について少しだけ
赤外分光法は試料に赤外線を照射し、分子の原子間振動が反映された赤外領域の吸収スペクトルを測定する分光法。
ラマン分光法は、レーザー光を試料に照射したときに生じる散乱光の振動数を調べる測定法。
これらを使うと、化合物の構造、濃度、結合の性質を決定(または推定)することが出来ます。
本題
まず、知っておいてほしいことは、
分子の振動により、
分子の電気双極子モーメントが変化するとき、赤外線吸収が起こりうり、
分子の振動により、
分極率が変化するときラマン遷移が起こりうる
ということです。
まとめると、
分子の振動により、
電気双極子モーメントが変化するときに観測→赤外活性
分極率が変化するときに観測→ラマン活性
ということです!
ここで一度、簡単な例を扱った練習問題を置いておきます。
練習問題
水(H2O)の振動モードは3(=3Nー6=9-6)個あり、それらは以下の通りである。
これらの振動モードが赤外活性かどうかを調べよ。
答え
結論から言うと、全部の振動モードで電気双極子モーメントが変化するので、3つの振動モード全てで赤外活性を持ちます。
電気双極子モーメントが変化することはイメージするしかないですが、もし今わからなくてもすぐ理解できるようになります。
参考に、電気双極子モーメントが変化しないときの例を載せておきます。
これは二酸化炭素の例です。
変位が打ち消されて、全体でゼロになってますね。
禁制律
さて、先ほど水分子の3つの振動モードで赤外活性の有無を判断できたわけですが、ラマン活性の有無はどう判断すればいいでしょうか?
先ほどの3つの振動をもう一度載せておきます。
これから、3つの振動すべてで分極率が変化するので、水の振動は全てラマン活性です。
(コメントくれた方ありがとうございました!)
今回は問題なかったですが、分子の歪み方が分極率に変化をもたらすかは直観的に判断するのが難しい場合があり、ラマン活性の有無は赤外活性のように直観的に判断できない場合があります。
ここで新しく登場するのが「禁制律」です。
禁制律:分子に反転中心があるとき、赤外活性かつラマン活性である振動モードは存在しない
なお、「反転中心があるとき」限定で使えることに注意してください!
まず、ある分子が反転中心を持つとき、(分子の形を想像してみてください)
振動モードが赤外活性ならば、
禁制律より、
対応する振動モードはラマン活性ではないことがわかります!
コメント
コメント一覧 (2件)
ページ下部の禁制律について「H2Oの3つの振動モード全てはラマン活性ではない」というのは誤りであるのでコメントします。
禁制律は分子が反転中心を持つときに成り立ちますが、この「反転中心をもつ」というのは分子が点対称であるということです。水分子は点対称ではなく、反転中心をもたないので、禁制律が成立しません。実際、水の対称伸縮、反対称伸縮、変角振動はすべてラマン活性となります。
禁制律が成り立つ分子としては、二酸化炭素や酸素分子などがあげられます。
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、「H2Oの3つの振動モード全てはラマン活性ではない」というのは誤りでした。近いうちに修正させていただきます。
もし再度誤りを見つけたときはコメントで教えて下さると嬉しいです!