今回は酸・塩基の滴定に関わってくる、水平化効果についての説明とその応用例を書いていきます。
突然ですが、あなたは以下の文章を見てどう思いますか?
「水中に存在しうる最強の酸はH3O+であり、最強の塩基はOH–である」
おそらく、
「そんなわけないじゃん」って思う人が大半だと思います。
だって、HClO4とか、HClとかのほうがH3O+よりも酸として強いですよね。
ですが、これは意外にも事実なんです。
なぜなのか?詳しく説明します!!
水平化効果の説明
水溶液を使うと水平化効果が起きる
酸と塩基の両方について考えられますが、今回は酸の場合だけを考えます。
上にも書きましたが、水溶液中ではH3O+が最強の酸なんです。
なぜかを、HClとHClO4を例にとって考えていきましょう。
HClやHClO4を水の中に溶かすと、
HCl + H2O → H3O+ + Cl–
HClO4 + H2O → H3O+ + ClO4–
のように、H2Oをプロトン化する反応が起きます。
H2Oをプロトン化、と言えば難しい気がしますが、要は、中学校で習う「HCl → H+ + Cl–」のような反応が起こっているわけです。
これらの反応は平衡定数が大きいので、HClやHClO4のような強酸は、完全にH3O+に変換されます。
これが、水中で最強の酸がH3O+であることの理由です。
H3O+より強い酸は、水(H2O)と反応してH3O+に変換されちゃうんですね。
塩基の場合も同じで、OH–より強い塩基はH2Oを脱プロトン化して消えてしまいます。
そしてOH–が代わりにできるわけです。
これらが水平化効果ですが、大事なのは、
「H3O+より強い酸は全てH3O+の強さに揃えられ、OH–より強い塩基は全てOH–の強さに揃えられる」
ということです。
実際、HClとHClO4ではHClO4の方が強い酸であるにも関わらず、
水溶液中では、HClもHClO4も同じ酸の強さ(H3O+の強さ)に揃えられていますよね。
この、「同じ強さにする」、というのが水平化効果の名前の由来です。
水以外を溶媒に使うと?
では、水以外の液体を溶媒として使うとどうなるのでしょうか?
例として、水より塩基性が弱い酢酸を溶媒に使うことを考えてみましょう。
酢酸に強い酸を溶かしても、以下のようにプロトン化は起こります。
HCl + CH3COOH → CH3COOH2+ + Cl– K = 2.8×10-9
HClO4 + CH3COOH → CH3COOH2+ + ClO4– K = 1.3×10-5
酢酸がプロトン化される(H+を受け取る)のは不思議な感じがしなくもないですが、この反応は実際に起こります。
ここまででは、結局水も酢酸もプロトン化されてますよね。
ですが、酢酸は水より塩基性が弱いために、プロトン化反応の平衡定数が小さいです。
なので、酢酸のプロトン化の反応があまりいかず、強酸たちが溶液中に残ることになります。
ちなみに、HClとHClO4ではHClO4の方が強い酸なので、平衡定数も104倍ほど大きいです。
水平化効果の応用例
水平化効果は水の両性により起こることが分かりましたが、それが滴定とどう関係するのでしょうか?
ここからはその応用例を説明していきます!
強酸を使った(すごく弱い)弱塩基の滴定
今回は(超)弱塩基の滴定を取り上げます。
弱塩基といっても、アンモニアのようなそこそこの弱塩基ではなく、尿素のようなすごく弱い弱塩基です!
(参考)K(アンモニア) = 1.8×10-5 , K(尿素)= 1.3×10-14
これを水中で滴定するとどうなるでしょうか。
水中だと、どんなに強い酸を使っても、問答無用でH3O+にされてしまいます。
結果、反応式は、
\(\ce{B + H3O+ <<=> BH+ + H2O}\)
となり、H3O+の酸のパワーが足りないために平衡が左に傾いてしまいます。 (尿素:B として表してます)
これでは滴定の終点が検出できません。
水平化効果のせいで、滴定できないわけですね。
じゃあ尿素のような弱塩基を滴定するにはどうすればいいか?もうピンときたひとも多いと思います。
溶媒に酢酸のような塩基性の弱い液体を使えばいいですね!
すると、
\(\ce{B + HClO4 <=>> BH+ClO4-}\)
となり、無事滴定をうまく行うことが出来ます!
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